遺言書が無い場合には、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。相続人の中に未成年者がいる場合には、特別代理人を選任しておく必要があります。
遺産分割協議書とは、相続人全員で決めた遺産の分割内容を証明するために作る書面のことをいいます。
遺産分割協議は、必ずしも書面によってではなく、口頭でも成立するとされています。
ただし、口頭のみですと相続人間のトラブルにつながりやすく、不動産の登記や金融機関の解約手続きをする際に遺産分割協議書を求められます。
相続発生後の相続税の節税の話では、遺産分割協議は一番重要になるポイントになります。
なぜかというと、相続財産の取得者によって相続税計算上において、下記の違いがあるからです。
- 取得者によって「小規模宅地等の特例」の適用有無が異なる場合があるため、取得者によって税額が変わる。
- 配偶者が取得する分については「配偶者の税額軽減」によって最低でも1億6000万円まで税額が0円になる。
- 配偶者がいる場合には、次の配偶者の相続(2次)を踏まえて、配偶者の1次相続の取得割合によって1次・2次相続トータルの税額が大きく変わる可能性がある。
遺産分割の方法
遺産分割では、これまでに確定した相続財産について、相続人全員が納得する分割を話し合う必要があります。分割方法は、3つあります。
現物分割(単独)
個々の相続財産をそのままの形で各相続人に分配する方法になります。
分割方法としては、一番スタンダードな分割方法になります。
しかし、主な相続財産が不動産である場合などには、法定相続分による分割の調整が難しくなる場合もあります。
現物分割(共有)
個々の相続財産をそのままの形で各相続人に分配する方法になります。
共有で取得する場合は、各相続人の持ち分を決めて、相続人2以上で共有で所有する分割方法になります。
主な相続財産が不動産で売却しないで法定相続分での分割したい場合には公平に分割することができます。
しかし、相続後に不動産を売却する場合には、共有者全員の合意が無いと売却することができません。
後々のトラブルになる可能性があるので、近日中に不動産を売却する予定がある場合がなければ、あまり勧められない方法になります。
空き家譲渡の特例を利用する場合には共有で取得して売却する方が有利になる場合があります。
換価分割
対象となる相続財産を売却して、金銭に換えて分割する方法になります。
換価分割であれば、相続人すべての意思を反映した公平な分割ができます。
ただし、不動産・有価証券を換価分割した場合に譲渡益が生じると所得税が課されるので、注意が必要です。
もちろん、現物は売却してしまうので自宅で配偶者が住んでいて今後も住み続ける場合などには、換価分割できません。
代償分割
相続人の一人がすべての相続財産を取得した場合などに、その代わりとしてその他の相続人に対し相続財産を取得した相続人の固有財産(現金など)から、支払いを行う場合の分割方法になります。
相続手続き的に簡便に行える方法です。代償分割をする場合には、遺産分割協議書に代償分割する旨を記載する必要があります。
遺産分割協議の注意点
相続財産の価額は何をベースに考える?
STEP3で確定した相続財産は、あくまでも相続税の計算上の評価額になります。
原則として、遺産分割の際に用いる財産の評価額は分割協議時点の時価(売却したらいくらになるか)になります。
税理士の実務上、相続税での評価額をもとに遺産分割協議を進めることが多いです。
しかし、不動産については、相続税評価額と時価に大きな乖離が生じる場合があるので、争族を回避するためには、不動産査定を行い時価を把握しておく必要があります。
生命保険金は分割案に反映させる?
本来、生命保険金については保険金の受取人の固有の財産となるので、保険金の受取額を遺産分割協議に考慮する必要はありません。
しかし、その他の相続財産に比べて生命保険金の受取額が多額の場合には、分割協議に反映させるべきものだとされた裁判もあります。
いずれにしても、相続人全員の同意があれば、生命保険金を考慮するかどうかについては、どのように考えても問題ありません。
遺産分割案の考え方
相続人全員の意思を尊重する
相続税のことよりも、まずは相続人全員が納得できる分割方法は何かを話し合うことが大切です。
仲が良いと思っていた家族ほど、争族になってしまうと言われることもあります。
どの家庭でも争族になる可能性があるという認識は持っておいた方が良いです。
争族になるケースとして、相続人の配偶者や友人が横槍を入れてくることもあります。
相続人の家庭ごとに、子供の養育費などの金銭的な問題を抱えているケースがあります。
相続人1人が勝手に分割方針を決めてしまうと争族になってしまう可能性が高くなりますので、連絡を密にして分割方針を決めましょう。
実は、相続財産が多くない家庭の方が争族となってしまうという裁判所の司法統計データ(P78 第52表)もあります。まずは相続人全員が納得できる分割案を話し合いましょう。
法定相続分で分割する
相続人の中で、特に決まった分割案が無ければ、まず第一に考える分け方としては、法定相続分通りに分ける分割案になります。
法定相続分は、民法で定めた公平に相続財産を分割するためのルールになります。
法定相続分での分割を分割案をベースとして、調整していく方法もあります。
相続税の節税効果を考慮する
配偶者には、配偶者の税額軽減という特例があります。配偶者の固有財産が多い場合などには、次の配偶者の相続(2次相続)を踏まえて、分割内容を決めていく必要があります。
また、自宅などの土地については、取得者によって小規模宅地等の特例が適用できる場合もあるので、相続税額の節税を踏まえた分割内容を考える方法もあります。
不動産・有価証券を売却し譲渡益が生じた場合には、相続人の所得税や社会保険料なども考慮する必要があります。
売却するタイミングにより、税金上有利・不利な場合もありますので、売却するタイミングなども考慮に入れましょう。
遺産分割協議で考慮したい相続税の特例
小規模宅地等の特例
被相続人の所有していた自宅の土地について、配偶者が相続することとなった場合などには、小規模宅地等の特例という特例を使うことができます。
この特例を使えば、自宅の場合には約100坪(330㎡)まで相続税の評価額を80%下げることができます。
例えば、3000万円(200㎡)の自宅の土地であれば、2400万円(3000万円×80%)の評価を下げることができます。
この特例を適用するには、相続税の申告が必要になります。たとえ特例適用後に基礎控除額以下になったしても、相続税の申告は必要となりますので注意しましょう。
小規模宅地等の特例には、自宅の他にも貸家や駐車場となっている土地にも使える場合があります。小規模宅地等の特例の適用の可否については、税理士でも判断が難しいケースが多々ありますので、注意しましょう。
配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者については、配偶者の税額軽減という特例が認められています。
配偶者の税額軽減の特例を使う場合には、最低でも1億6000万円までは、相続税がかかりません。
このブログで想定している読者の方の相続(財産規模1億円)であれば、配偶者がすべての財産を相続すれば相続税は0円となります。
しかし、配偶者が元々持っていた財産(固有財産)の金額によっては、配偶者がすべて相続すると税金上不利な場合もあります。
例えば、被相続人(夫)の財産が1億円で、相続人は配偶者(妻)と子2人の合計3人のケースを考えます。
配偶者の「相続する前から元々もっていた財産(固有財産)」の違いによる相続税のシミュレーション結果は下記の通りです。
※最初に起こった相続を1次相続といい、1次相続の配偶者の相続を2次相続といいます。
配偶者(妻)の 固有財産 | 1次相続(夫)の 相続税 | 2次相続(妻)の 相続税 | 1次・2次相続の 相続税合計 |
---|---|---|---|
0円 | 0円 | 770万円 | 770万円 |
500万円 | 0円 | 860万円 | 860万円 |
1000万円 | 0円 | 960万円 | 960万円 |
2000万円 | 0円 | 1160万円 | 1160万円 |
3000万円 | 0円 | 1360万円 | 1360万円 |
5000万円 | 0円 | 1840万円 | 1840万円 |
1億円 | 0円 | 3340万円 | 3340万円 |
配偶者(妻)が財産をすべて相続すれば1次相続(夫)は0円になります。しかし、配偶者の固有財産の金額が多ければ多いほど、配偶者の相続(2次相続)の際に相続税が高くなります。
次のケースでは、配偶者の取得割合が法定相続分1/2(50%)の場合(1億円の相続財産のうち5000万円を配偶者が取得)のシミュレーションをします。
配偶者(妻)の 固有財産 | 1次相続(夫)の 相続税 | 2次相続(妻)の 相続税 | 1次・2次相続の 相続税合計 |
---|---|---|---|
0円 | 385万円 | 80万円 | 465万円 |
500万円 | 385万円 | 130万円 | 515万円 |
1000万円 | 385万円 | 180万円 | 565万円 |
2000万円 | 385万円 | 320万円 | 705万円 |
3000万円 | 385万円 | 470万円 | 855万円 |
5000万円 | 385万円 | 770万円 | 1155万円 |
1億円 | 385万円 | 1840万円 | 2225万円 |
1次相続(夫)でも385万円相続税が発生することになりました。しかし、前の表と比べると1次・2次の相続税の合計額は少なくなっているようです。次の表で、これまでの2つの表をまとめています。
上記の2つのシミュレーション結果をまとめてみました。
配偶者(妻)の 固有財産 | 配偶者の取得割合100% 1次・2次相続の相続税合計 | 配偶者の取得割合50% 1次・2次相続の相続税合計 | 差額 |
---|---|---|---|
0円 | 770万円 | 465万円 | 305万円 |
500万円 | 860万円 | 515万円 | 345万円 |
1000万円 | 960万円 | 565万円 | 395万円 |
2000万円 | 1160万円 | 705万円 | 455万円 |
3000万円 | 1360万円 | 855万円 | 505万円 |
5000万円 | 1840万円 | 1155万円 | 685万円 |
1億円 | 3340万円 | 2225万円 | 1115万円 |
今回のケース(相続財産1億円、相続人3人(配偶者、子2人))では、配偶者の固有財産の規模にかかわらず、配偶者の取得割合は100%ではなく50%にするほうが1次・2次の相続税合計額が低くなるというシミュレーション結果となりました。
まとめ 遺産分割協議は相続税も考慮した分割にしましょう
遺産分割協議は、まず相続人全員が納得できるような分割案を考えることが大切です。
当ブログでは、相続財産1億円程の相続人の方を読者として想定していますが、分割内容によっては支払う税金が数百万単位で違ってきます。
小規模宅地等の特例が適用できる不動産が複数ある場合や配偶者の固有財産が多い場合などは、税理士報酬を払ってでも申告をお願いする方が1次・2次相続の合計額が少なくなる場合があります。
2次相続を踏まえた遺産分割について不安な方は、一度専門家にご相談された方が良いでしょう。
次で最終ステップです!申告期限(相続開始から10か月)も気にしながら手続きを進めましょう。